2010年04月11日

灰干し「厄介者」が取り持った離島の縁・・・ 天風録 八葉蓮華

 干物なのに、鮮魚のようなみずみずしさ。焼いて口に入れるとしっかりしたうま味が広がり、すこぶるご飯も進む。瀬戸内海の真ん中、笠岡市の北木島で住民たちが手作りし、通信販売を始めた「灰干し」である

 島の漁師が捕った旬のタイやシタビラメ、タコなどを開き、砂粒のような火山灰の中にすっぽり埋める。冷蔵庫で寝かせて2日間。水分を吸わせながら熟成を待つ。中国地方ではあまり見かけることのない製法だ。日や風に当てないので脂の変化が少なく、魚本来の滋味が凝縮するという

 その灰は、はるばる600キロ離れた東京都の三宅島から運ばれてきたと知って驚いた。度重なる噴火によって大量に降り注いだ灰や石。「干物づくりに役立てられないか」。それを聞きつけ助け舟を出したのが、北木島の人たちだった

 こちらは古くから「北木石」で知られる土地柄。石を加工したり火山灰の塊を細かく砕いたりするのはお手のものだ。とはいえ北木島にも灰干しのノウハウはない。地元の魚を使って試行錯誤を重ねながら、1年半かけて商品化にこぎ着けた

 三宅島やほかの島でも、これを手本として事業に取り組む動きが広がっている。「厄介者」が取り持った離島の縁。誕生した特産品の味わいは、ことのほか深い。

 天風録 中国新聞 2010年4月5日
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2010年04月10日

「智慧の環」が目指した学ぶ楽しさだけは失ってほしくない・・・ 天風録 八葉蓮華

 明治3年といえば、ちょんまげ帯刀姿が道を行き交っていたころ。その年、わが国初の小学校教科書「絵入り智(ち)慧(え)の環(わ)」が発刊された。著者の古川正雄は、福沢諭吉のまな弟子で慶応義塾の初代塾長。広島県北広島町の芸北支所の近くで生まれた

 薄墨で刷られた和紙のページを図書館でめくると、維新前後のにおいが立ちのぼる。仮名や数字、方位を楽しく学べるよう絵が添えてある。世界地図や舶来品の紹介も。外国人を驚かせた当時の庶民の教育水準の高さをほうふつとさせる

 時代は変わっても、国が目指す社会を映し出すのが教科書だろう。欧米の知識を取り込み、ひたすら坂道を駆け上っていたころが幸せだったのかもしれない。教えることは増え続けたが、経済成長がなによりの成果だった

 「第2の経済大国」になったころから、迷いが出る。知識偏重の詰め込み教育が子どもを追い詰めてはいないかと。そうして転じた「ゆとり教育」も、学力低下を招いたと風当たりが強い。国際調査でアジア諸国に追い抜かれた科目もある

 中国山地の山ひだから出た先覚者が初めて世に送り出して140年。来春から小学校の教科書は一挙に分厚くなり、「脱ゆとり」にかじを切る。「智慧の環」が目指した学ぶ楽しさだけは失ってほしくない。

 天風録 中国新聞 2010年4月4日
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2010年04月09日

「代返」ならぬ身代わり投票とは言葉もない・・・ 天風録 八葉蓮華

 4月の天気は変わりやすい。前線の通過に伴う強風が列島を吹き抜けたきのう、永田町も一陣の突風に見舞われた。急発達した低気圧の目は意外な人物。不祥事を起こした農相の後継を3度も引き受け、ミスターリリーフと呼ばれた自民党の若林正俊氏である

 「魔が差した」のだという。それにしても参議院を舞台に、「代返」ならぬ身代わり投票とは言葉もない。いかにも分別くさそうな若林氏の心の中に、どんな魔物が入り込んだというのだろうか

 不在の隣席はかつての参院のドン。その採決ボタンを押す証拠写真が出回って騒動になった。12年前に導入した方式だが、選良に魔が差すことは想定外だった。各地の大学では代返防止システムの導入が進む。同列に論じたくなること自体情けない

 責任をとらない民主党とは違うぞ、と言いたかったのか。本人はあっさり議員辞職願を出し、幕引きとなった。もともと夏の参院選で引退し、代わりに長男が出る予定だった。リリーフ準備が万端整っているなら、潔さも半ばというところか

 身代わり投票はなんと立て続けに10回も。この日だけと言われても釈然としない。前線は太平洋上に抜けた。穏やかな花見日和が広がりそうだが、突風にあおられた良識の府には大穴が開いたままだ。

 天風録 中国新聞 2010年4月3日
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2010年04月08日

「末代までの恥」21世紀枠校をくみしやすいとみるのは本音かもしれない・・・ 天風録 八葉蓮華

 満開を前にして、雨に打たれ散ってしまった。桜ならぬ広陵ナイン。泥んこのグラウンドが選手たちに気の毒だ。3年前の夏の惜しい準優勝が忘れられず、早く雪辱してほしいと願ったのだが

 「弱いから負けた。雨はお互いさま」と指揮官。両チームが近くに陣取る試合後のインタビューは非情だ。負けたら「敗軍の将は兵を語らず」と断りたいのが本心だろう。無念さを押しコロしていたのではないか

 逆に不用意な発言が思わぬ波紋を広げ、自身の進退に及んだケースもある。初戦で21世紀枠の出場校に敗れ「末代までの恥」と漏らした開星の前監督だ。昨秋の中国大会優勝を誇る。戦績よりも地域とのつながりなどを評価されて選ばれたチームに、よもやの結果。自らを責めたのだろう

 強豪校が21世紀枠校をくみしやすいとみるのは本音かもしれない。懐具合の豊かな学校が有力選手を全国から集める特待生の問題が背景にありそうだ。だから実力本位とは別枠の選出も、春の甲子園の「特色」かなという気がする

 野球に限らず、決まり事で若者を縛りすぎるのは禁物だろう。きょうが命日の高村光太郎は「春駒」の詩で「のびやかな、素直な、うひうひしい」と3歳の栗毛(くりげ)をたたえる。広陵ナインも夏にそんなプレーを見せてほしい。

 天風録 中国新聞 2010年4月2日
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2010年04月07日

未来を信じてあきらめない。そうすれば羽ばたく日がきっと来る・・・ 天風録 八葉蓮華

 アゲハチョウの待ちに待った季節が巡ってきた。長い冬を耐えたさなぎの殻を破り、大きな羽を広げ始める。黒と黄のストライプに青が交じる美しい紋様。日本のチョウの代名詞といえようか

 懸命に羽を伸ばす1匹をミカン畑で見つけ、「頑張れ」と声をかけた幼い日を思い出す。何度も脱皮を繰り返しながら、魔法のように変化していくアゲハ。花を求めて、お気に入りの「空の道」を行き来するさまは、さながら通勤や通学のようだ

 就職したり進学したりする若者にとっても、きょうは「羽化」の日だろう。児童文学者の高丸もと子さんの詩にこんな一節がある。「だれもしらない音だけど/わたしの殻をやぶる音/今日からはじまる/何かいいこと」。きのうまでとは違う自分との出会い

 ただ、殻を破りたくても、やすやすとはできない時代でもある。広島県内では高卒者の1割、大卒の2割が、2月末までに就職先が決まらなかった。望む大学などに進めず、リベンジを誓っている受験生も多いに違いない

 アゲハの美しさの理由は何だろう。幼虫の時代にもりもり葉を食べてエネルギーを蓄える。そして、さなぎとなって閉じこもり、羽や鱗粉(りんぷん)をこつこつ用意する…。未来を信じてあきらめない。そうすれば羽ばたく日がきっと来る。

 天風録 中国新聞 2010年4月1日
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2010年04月06日

「できるところまで頑張る」覚悟を見せて踏ん張れるか・・・ 天風録 八葉蓮華

 満開の桜の下。「まだやるの?」と問いかける楽天の山崎武司選手に、大関の魁皇関がしみじみ語る。「やめようかなって思う時もあるんですけどね。できるところまで頑張りたいですね」

 缶コーヒーのテレビCMが流れている。41歳と37歳。数々の苦難を乗り越え、こつこつと努力を重ねて現役を続ける二人の姿は、見ていてすがすがしい。その魁皇関にうれしい知らせが届いた。幕内在位100場所の偉業に、総理大臣顕彰が贈られるという

 人は究極の状況を迎えると、オロオロするか、逆に開き直れるかの両極端に分かれる―。魁皇関が自伝でそんな「人間観」を披露している。4年前の春場所、7勝7敗で迎えた千秋楽の白鵬戦。引退の危機を脱する白星を呼び込んだのは、ジタバタしないと決めた開き直りだった

 顕彰を贈る側のこの人も、俵に足が掛かっている。在位半年を過ぎたばかりの鳩山由紀夫首相。今月中に米軍普天間基地の移設先の政府案を取りまとめると言ってきたのに、きのう「数日ずれることが何も大きな話ではない」と逃げを打った

 郵政改革法案をめぐるゴタゴタもしかり。これでは「まだやるの?」という声も聞こえてきそうだ。魁皇関のように「できるところまで頑張る」覚悟を見せて踏ん張れるか。

 天風録 中国新聞 2010年3月31日
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2010年04月05日

子どもの夢に力添え「宝探し」命にぎわう里山を後世に・・・ 天風録 八葉蓮華

 草っぱらに腹ばいで小学生がカメラを構える。その鼻先をカマキリが悠然と横切っていったのだろう。「どちらへお出かけ?」「ちょっとそこまで」。そんなやりとりが聞こえてきそうな写真集を広島県北広島町の雲月(うづつき)小が作った

 17人の全校児童が撮影と編集の二役を手分けして、1年がかりで仕上げたという。ロケ先は学校近くのなだらかな雲月山。何度も登り、四季折々の山野草や生き物の表情を240枚ほどのカラー写真に切り取った。題は「雲月のたから」と付けた

 写真説明にも、友達感覚で自然と向き合う子どものまなざしがにじむ。放牧中の牛と目が合った瞬間を収めた1枚は「ちゅうモーく」。盗掘を免れ、うつむき加減に花を開いたカキランには「友達が少なくなって大変だね」と添えている

 子どもの夢に力添えする公募事業で取り上げられ、出版にこぎ着けた。湯崎英彦知事の招きで県庁を訪れ「玄人顔負けの出来栄え」と褒められた。「宝探し」行脚を始めた知事には、児童らの眼力が頼もしかろう

 八幡湿原という生態系の宝庫を守り、雲月山に芽吹きを促す春の野焼きもよみがえらせた北広島町。命にぎわう里山を後世に残す生物多様性条例も定めた。古里を思う子どもや大人の心こそ、かけがえのない宝だ。

 天風録 中国新聞 2010年3月30日
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2010年04月04日

一人横綱を追う、ライ麦畑の国から角界を背負う偉丈夫・・・ 天風録 八葉蓮華

 力士が一人で土俵に上がり目に見えない稲の精霊を相手にする。一見、ユーモラスな動きだが真剣そのもの。見事、精霊が勝って豊作が約束される―。しまなみ海道に沿った大三島(今治市)の大山祇神社に伝わる一人相撲である

 神事に限らず、相撲と稲作には浅からぬ縁がありそうだ。例えば、稲わらを編んで勝負の場を限る土俵。畦(あぜ)に囲まれた水田を連想させなくもない。そういえば、力士のすり足も田んぼでの足運びに似ている。そんな所作は足腰の強さをはぐくんできた

 瑞穂(みずほ)の国のイメージが薄れてきたせいか、角界で日本人が振るわない。気を吐くのは大草原の国から来たモンゴル勢だ。遊牧民らしく、かの地の相撲に土俵はなく、押し出しもない。それでもルールの違いをものともしないパワーには舌を巻く

 バルト海に面したライ麦畑の国からも、角界を背負う偉丈夫が現れた。エストニア出身の把瑠都関だ。きのうの千秋楽も勝ち、大関昇進を決定づけた。腕っぷしがめっぽう強い巨体に似合わず、ちゃめっ気がある。一人横綱の白鵬関を追う存在になるか

 黒パンで育った把瑠都関も郷に入れば郷に従え。都内の小学校で毎日食べるご飯の量を聞かれ、「30杯くらいかな」と答えたという。稲の精霊が宿ったような強さに見える。

 天風録 中国新聞 2010年3月29日
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2010年04月03日

どこで、つながっているか分からないのが世の中・・・ 天風録 八葉蓮華

 ジューと食卓の鉄板に並べて焼く。ギョーザのニラやニンニクの食感が、いつからか家で手軽に楽しめるようになった。輸入冷凍食品のおかげだ。そんな日常を突然揺るがしたのが「中国製ギョーザ中毒事件」だった

 あれから2年。製造した中国の工場で働いていた元臨時従業員が当局に捕らえられた。「正規の職員になれなかった」。給料や待遇に不満があり、腹いせで農薬を混入させたと言っているらしい。それが海を越え、日本で大騒ぎになると想像していただろうか

 事件で「メタミドホス」という農薬の名を初めて知った。食の安全が取りざたされ、スーパーの棚から中国産食材が姿を消したこともあった。わが家でも随分気にしたのに、のど元過ぎれば忘れていたことにぎょっとする

 どこで、どう海外とつながっているか分からないのが今の世の中だ。食料自給率は40%そこそこ。和食といっても、そばにしろ豆腐にしろ、外国産の原材料抜きには考えられない。なのに、その国の人たちがどんな暮らしをしているのか、あまり目を向けることもない

 非正規労働者の待遇問題が「毒」になって混じったとすれば、身につまされる。デフレの日本社会で安さや便利さを支えているのは何だろう。とても「一件落着」とは思えない。

 天風録 中国新聞 2010年3月28日
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2010年04月02日

12年続けてBクラスに甘んじる古巣を引き受けた「野村」謙二郎監督・・・ 天風録 八葉蓮華

 プロ野球の監督で「野村」といえば、昨シーズンまでならぼやき節のご仁が浮かぶ。こちらはどんな節回しを聞かせてくれるだろうか。新顔の野村謙二郎監督が今夜の開幕ゲームで、赤ヘル軍団の采配(さいはい)を振る

 体形や年こそ随分違うが、優勝から遠ざかった球団を任された二人の立場は似ている。ノムさんはヤクルトや楽天を鍛え上げてきた。12年続けてBクラスに甘んじる古巣を引き受けた謙二郎監督にとって、格好のお手本に違いない

 カープの今季キャンプでも、どこかノムさん流の「弱者の戦法」が感じ取れる。「すきは見せるな、すきを突け」「何をやってくるか分からないと相手を揺さぶろう」。これまでの3倍という練習量のキャンプ。夜もビデオを使ってイメージトレーニングを重ねた

 オープン戦ではチーム打率が下から3番目なのに、平均得点は12球団でトップ。四球や足を絡め、カープ野球の復活かと思わせてくれる。「野球って、なかなか奥が深い」と主砲の栗原健太選手も目を開かされたという

 あくまで優勝。謙二郎マニフェストの金看板である。勝ちパターンの工程表をどう描くのか。下馬評はかまびすしいが、チームのまとまりはよい。ノムさんの野球訓には「要は、全員が勝とうぜという気になること」とある。

 天風録 中国新聞 2010年3月26日
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2010年03月31日

「究極のパッチワーク」使い込んできた襤褸(らんる)ボロ・・・ 天風録 八葉蓮華

 「究極のパッチワーク」に目がくぎ付けになった。268枚の端切れを縫い合わせてあるという布団地。使い古した布を継ぎはぎしたり当てたりした襤褸(らんる)(ボロ)だ。その一針一針に、どんな思いを込めたのだろう

 広島市に住む水野恵子さんのコレクションが来月4日まで、福山市の広島県立歴史博物館で展示されている。水道工事業を営んでいた父の義之さんが生前、仕事の傍ら各地を歩いて収集した襤褸など古布500点余りの一部だ

 大河ドラマ「龍馬伝」で、マズしい暮らしを送る岩崎弥太郎や家族が身にまとっている着物といえば、昔を知らない世代にもイメージが浮かぶだろうか。最近は、BOROとして欧米の染織工芸や現代美術ファンの視線も熱いというから驚かされる

 会場には当て布で補強された半纏(はんてん)やもんぺ、幼子が履いた足袋も並ぶ。農村の女性たちが布をいとおしみながら、何代にもわたって使い込んできた襤褸。向き合ううちに、作った人、使った人のぬくもりまで伝わってくるようだった

 水野さんによれば「豆三つ包めたら布は捨てるな」という言い伝えもあるそうだ。祖先がはぐくんできたエコ心の極みであろう。「陽炎(かげろう)に母の襤褸を吊(つ)る日曜」(沼尻巳津子)。遠い日の記憶もまた呼び覚ましてくれる。

 天風録 中国新聞 2010年3月25日
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2010年03月30日

農山村は今や、ゲリラ戦法が得意なサルの勢力圏・・・ 天風録 八葉蓮華

 「専守防衛で徹底抗戦するしかない」。太田川の上流域に家を借りた友人の弁である。相手は、タマネギや大根を狙って出没するサルたち。畑にくいを立て、ネットで覆った。ところが、サルを防ぐ前に「伏兵」がいた。春先の重い雪に押しつぶされたのだ

 相手が女性や老人だと近づいても逃げない。家に上がり込み仏壇の鈴をチーンと鳴らしていた。鉄砲を構えると手を合わせて命ごいをする。電気柵のスイッチを切ったとの伝聞情報まで。サルの悪さについて語る人はなぜか多弁になる。そして大抵、「やれやれ」で話は終わる

 爆竹などを鳴らしても効果は一時的。人に似ており、攻撃するのもはばかられ、根負けしがちだ。そんなサルの被害が全国の山里で目立ち始めたのは1970年代ごろ。奥山に人工林が増え、餌が減ったせいもあろう

 集落から人影が減ったことも無関係とはいえないようだ。「誰かがごそごそしとればサルも出てきにくいのに」と友人は言う。自分の領分が増えたと、サルの側は勝手に思いこんでいるのかもしれない

 農山村は今や、ゲリラ戦法が得意なサルの勢力圏だ。防止ネットは敵陣の中の孤塁にすぎまい。もっと人影を増やせないものか。都市住民を巻き込んでの「集団的自衛権」が行使できれば心強い。

 天風録 中国新聞 2010年3月23日
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2010年03月28日

桜前線が北上中「サヨナラ」はまた、出会いの始まり・・・ 天風録 八葉蓮華

 桜前線が北上中、といえばなぜか心が浮き立つ。10日には四国の高知でソメイヨシノが開花。20日には広島でも咲き始めた。いずれも平年より10日前後も早い。地球温暖化の影響がどこまで進むのか、とつい考えてしまう

 日本気象協会の開花予想では、締めの北海道・釧路が5月18日だから、およそ2カ月で駆け上がる。速度にして1日約20キロ。この桜前線と一緒の旅ができれば、とあこがれる人は多いだろう。夢のようなぜいたくを、何年も実現している人がいる

 カメラマンの宮嶋康彦さん。写真集「日本列島桜旅」は四季折々の桜に焦がれた結晶だ。1月の沖縄から、5月の北海道、さらに冬桜まで45カ所を紹介。宮嶋さんは「桜恋の旅」と呼んでいる

 桜前線を押し上げるかのようにきのう、日本列島を強風が吹き荒れた。春の嵐である。花に嵐、とくれば井伏鱒二さんの有名な翻訳詩が浮かんでくる。「コノサカヅキヲ受ケテクレ/ドウゾナミナミツガシテオクレ/ハナニアラシノタトエモアルゾ/『サヨナラ』ダケガ人生ダ」

 卒業や異動たけなわの時期だ。高校、大学、実社会へと巣立ち、家族や古里との別れもあろう。入学や入社を彩った桜も今や、卒業シーズンと重なるようになった。「サヨナラ」はまた、出会いの始まりでもある。

 天風録 中国新聞 2010年3月22日
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2010年03月27日

「たがや〜」と拍手を送りたいような器が現れれば・・・ 天風録 八葉蓮華

 花火見物の両国橋の上。そこのけと馬を乗り入れる侍に、道具箱を持った男が「きょうは何の日だと思ってやがるんでえ」と、たんかを切る。樽(たる)や桶(おけ)を直す「たが屋」は、江戸落語の題になるほどポピュラー。たがを締める、緩むなどの言い回しが、今に伝わる

 緩み具合が目を覆うばかりなのは自民党だ。選挙を前に一致団結を、と引き締める声を尻目にこのたがには限界がある、と離れていった元閣僚。ほかの大物も、たがの取り換えを公然と口にする

 がっちり締めたたがは、そうそう緩まない。しかし酒や水を入れないままでおくと、次第に木が乾いて縮み、そこからガタが来るという。満々とたたえていた「政権」という酒を失って、自民党という樽も、がたつき始めたのだろう

 代わりの入れ物になった民主党。新樽のころはそうでもなかったが、今は一滴もこぼすまいとばかり、たがを締め上げている。その息苦しさに「物も言えない」と異議を唱えた役員は、クビを言い渡された。中で不満も発酵していると見える

 別の新しい樽を作ろうとか、ばらして組み立て直してみたら、とかのアイデアもあるようだ。修繕でも新品でもいい。たがが程よく締まり、安心して酒を入れられ、「たがや〜」と拍手を送りたいような器が現れれば…。

 天風録 中国新聞 2010年3月21日
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2010年03月26日

地域のきずな「杏まつり」世代を超えて守り続ける・・・ 天風録 八葉蓮華

 バスの前方に海が見えてきた。右手の山並みは、もやをかけたようにピンクにかすんでいる。「杏(あんず)の里」で知られる福山市田尻地区だ。花はいまが見ごろ。中腹まで人家の続く杏の里が最も華やぐ季節。鞆の浦や仙酔島も間近に見える

 中国原産の杏は唐桃とも呼ばれ、初夏に小ぶりの実を付ける。田尻には江戸時代、豊後(大分県)から僧侶が持ち込んだと伝わる。食用に限らず、せき止めの生薬としても重宝されたという

 終戦直後、石積みの段々畑から杏が姿を消し、代わりに芋が植えられた。食糧難の時代だった。杏の里復活への動きが本格化するのは40年ほど前。「公害が深刻になり、身近な環境にも関心が向き始めたころでした」と地域の世話役たち。接ぎ木や剪定(せんてい)、下草刈りの作業が続いた

 右肩上がりの経済成長に陰りが見え、みんなが戦後の大事な忘れ物に気づき始めたころでもある。段々畑に立って目を凝らせば、国内有数の製鉄所の煙突群も見える。再生への思いはひとしおだったに違いない

 里山の一角には、地元の小学生が卒業記念に植えた若木も並ぶ。そんな地域のきずなを確かめ合う「杏まつり」があす催される。18回目の今年は露店が並び、遊覧用の杏船も出る。世代を超えて守り続ける「誇り」を海から望める。

 天風録 中国新聞 2010年3月20日
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2010年03月25日

進化を続ける省エネ技術、環境に優しい暮らし・・・ 天風録 八葉蓮華

 市街地を走ってみると、意外に信号待ちで停車する時間が長かった。25分余りのうち7分半。この間エンジンも止まった。かかったままなら、10分間でガソリン260ccをロスするという。知らず知らずの浪費に驚かされる

 停車時にエンジンを自動的に切るアイドリングストップ。きのう、この機能を載せた車に試乗した。いつも通りの運転で無駄をなくせるのも快適だ。こちらの思いを心得たような反応。これが最先端の技術なのだろう

 省エネならエアコンも芸が細かい。床や壁、ドア付近の室温をセンサーで確認。変化があれば「カーテン・ドアが開いてませんか」とリモコンの文字が問いかけてくる。人がいなくなると自動的に消えるテレビ、周りの明るさに応じて節電する冷蔵庫までお目見えした

 環境に優しい暮らしといえば「不便」や「我慢」のイメージがつきものだった。新顔の製品は、そんな常識をひっくり返す力も備えているようだ。これなら、ずぼらなままでもエコを積み上げられそうな気にさせる

 2020年までに温室効果ガスの25%カットを掲げる鳩山政権。なかなかハードルは高い。でも、進化を続ける省エネ技術の加勢があれば、オーバーヒート気味の温暖化エンジンをひょっとしてストップできるかも…。

 天風録 中国新聞 2010年3月19日
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2010年03月23日

レモン王国「広島レモン」酸っぱさと香りの魅力・・・ 天風録 八葉蓮華

 好物はイモや木の実。ミカンやイチジクもよく食べる。瀬戸内の島々で農作物を食い荒らすイノシシ。そんなやっかい者でも、そっぽを向いてしまう果物があるという

 思い浮かべれば、つばがわいてくるレモンだ。イノシシが嫌うのも分かる気がする。そのためだけではなかろうが、島ではレモンに転換するかんきつ農家が増えている。広島県の生産量はこの10年ほどで約3倍に。国産全体の3分の2を占める

 実は、戦前もレモン王国だった広島。明治時代から栽培が始まり、輸出していた時期もある。温暖で雨が少ない気候は栽培にもってこい。強い風もあまり吹かず、枝にあるトゲで実に傷がつく心配も少ない。穏やかな風土が、質の高いレモンをはぐくんできたのだろう

 最近は安心・安全をうたい文句に、生だけではなく、加工された商品も店頭で見かけるようになった。ポン酢、レモンティー、ケーキ…。大手メーカーも「広島レモン」と銘打った搾り汁を全国で売り出したばかりだ

 あの強烈な酸っぱさと香りこそ、レモンの魅力に違いない。こってりした揚げ物をさっぱりさせ、お菓子の甘さを引き立てる。手近に置いて料理に垂らせば、気になる塩分の取りすぎも防いでくれる優れもの。イノシシだけには教えたくない。

 天風録 中国新聞 2010年3月17日
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2010年03月21日

「ザ・インターネット」いたちごっこを演じるうちに・・・ 天風録 八葉蓮華

 名前や生年月日など、個人情報がすべて消されてしまったら、どうやって自分が自分であることを証明するか。15年前の米映画「ザ・インターネット」が描いた仮想現実の世界だった

 匿名性のそんな危うさの半面、ネット上のアドレスさえあれば、世界中の誰とでも語り合える。上から支配されず、「分権型」の結び付きともいえるインターネットが広がった理由だ。最近も、イラン国内の改革派の抗議行動に使われたり、大震災のハイチ支援に力を発揮したり…

 そこで浮上したのが「インターネットを今年のノーベル平和賞に」という動きだ。幅広く対話と論議を広げ、国際的な対立を乗り越えるきっかけをつくった、という推薦者の評価もうなずける。過熱してサイトの炎上事件なども相次ぐが、逆に圧力に屈しないパワーも秘めている

 ネットを技術面で鍛えてきたのはハッカーやウイルスの攻撃。いたちごっこを演じるうちに安全性を高めた。今、中国に進出した米検索サイトを悩ましているのは、自由を求めた発信元を狙い撃ちする「検閲」圧力。政府も絡んでいるらしい

 映画では、ヒロインが必シの抵抗で相手以上の力を培い、「自分」を奪い返す。ネットが受賞するようなら、受取人を中国要人にするのも一案かもしれない。

 天風録 中国新聞 2010年3月16日
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2010年03月20日

平成の大合併で、生まれ育った町の名、どんどん消えている・・・ 天風録 八葉蓮華

 山田詠美さんの近作「学問」は「美流間(みるま)」という架空の小さな市が舞台だ。引っ越し話に揺れる小学生の気持ちを、こう描く。「彼女の思う美流間は、もはや地名であって地名ではないもの。彼女を包むさまざまなものをひとまとめにした名称でした」

 思い出の場があり、人がいる。よそにいてもその名を聞いただけで押し寄せる波のような感情。生まれ育った町の名は、子ども心にも深く刻まれているに違いない。ところが平成の大合併で、小さな自治体がどんどん消えている

 とりわけ2千近くあった「町」。1200も減って783となり、ついに市の数を下回った。象潟(きさかた)、余呉、信楽、長船(おさふね)、坊津(ぼうのつ)…。多くの人が耳にしたことのある由緒ある町名も例外ではない。住んでいる人の喪失感はどれほどだろうか

 半世紀前の昭和の大合併でなくなったのは6千以上の「村」。それでも最近まで、消印の郵便局名や小学校名にしぶとく存在感を示していた。しかし合理化や統廃合。こちらも急速に失われつつある

 民族移動や植民が盛んだった欧米と違って列島には古名が多く残る、と専門家は言う。合併による町村の墓碑銘に心が痛むのは、地名であって地名を超えたものを、そこに見るからだろう。世界に誇れる「地名遺産」。粗略にしてはなるまい。

 天風録 中国新聞 2010年3月14日
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2010年03月18日

フンボルト「ペンギン」温帯地域で暮らす種の方がはるかに多い・・・ 天風録 八葉蓮華

 ペンギンのコーナーには、南極の氷山を模した白いコンクリートの小山。一昔前の水族館では、お決まりの取り合わせだった。実は、南極だけにいるペンギンは18種中2種。日本と同じ温帯地域で暮らす種の方がはるかに多い

 ペンギンといえば南極。そのイメージがつくられたのは戦後間もないころだ。はるばる南極海へ出かけた捕鯨船が連れて帰り、たちまち子どもたちの人気者に。捕鯨基地だった下関市の水族館で多くのペンギンが見られたのも、そんな事情からだ

 ところが国際的な取り決めで、むやみに捕まえられなくなった。捕鯨も下火となり、極地のペンギンが日本に来ることは、ほとんどなくなった。後を継いだのが温帯にすむペンギンたちだ

 代表格がチリなどにすむ小柄なフンボルト。絶滅も心配されている現地と違い、日本国内では1500羽余りに増えた。寒い日はストーブで暖をとることもあるというが、固定観念は恐ろしいもの。「氷山」離れができない水族館もあった

 フンボルトの生息地を再現したゾーンが下関の海響館にできた。チリの国立公園から「重要な繁殖地」に指定されるほど本格的な屋外施設だ。土穴の中に入ったり、水中を泳いだり。のびのびとした動きを眺めていると、南極の氷のイメージも解けてくる。

 天風録 中国新聞 2010年3月13日
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