2009年07月26日

山椒魚「まなびの館ローズコム」明るく自由な空間から・・・ 天風録 八葉蓮華

 岩屋にこもっているうち、体が大きくなって出られなくなった。しまった、と歯がみをし、外を泳ぐ小魚に悪態をつく。小説「山椒魚(さんしょううお)」だ。作者の井伏鱒二が1912年に入学したのが福山中学(現誠之館高)である

 寄宿舎のすみに「畳一枚分ほどの浅い池」があった。井伏は田んぼからカエルを捕ってくるなどサンショウウオを相手に遊んでいたという。当時の寄宿舎は軍隊式の閉鎖空間。少年はここで心をしばし癒やしていたのだろう

 ほぼ1世紀を経て、福山中跡地は「まなびの館ローズコム」と名前を変え、図書館などの学習施設になっている。畳ほどの池はないが、広い親水空間が人々を憩わせる。開館からちょうど1年の夏休み。開放的な雰囲気もあって大にぎわいである

 山椒魚は岩屋の中で、群れから逃れられない小魚を見る。「何という不自由千万な奴らであろう」。小さな窓からのぞいてこそ多くのものが見られる、とも。枠の中でもがきつつも、諦念(ていねん)に至る山椒魚。軍事色が漂い始めた時代に身を置く作家自身の姿だったかもしれない

 さまざまな本があり、開放感あふれる図書館にいて「山椒魚」の背景に思いをはせてみる。不自由が生んだ思索がある。明るく自由な空間からは、また別の表現が生まれるのだろう。

 天風録 中国新聞 2009年7月25日
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ラベル:天風録
posted by 蓮華 at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 天風録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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