福山市鞆の雛たちは、その点幸せだ。娘が巣立って行った後も、この季節になると、手入れをして並べてくれる人がいる。民家やお店などを舞台にした「町並ひな祭」。さまざまな雛が、笑みを含んでみやびな顔を見せる
高齢化が進むこの町に華やぎを、という催しは7年前から。50カ所で始まり、今は100カ所に増えた。懐かしそうに見入る女性客はすっかり童心に帰ったようだ。鞆の春は、幼いころの自分に会う場所にもなっている
実家に押し込んでいる雛飾りを思い出す。一向に手伝う気のない娘を横目に、夫婦で2時間がかりで飾り、片づけたものだ。その娘も「将来はこの人と」と彼氏を連れてくる年になった。「結婚は夢の続きやひな祭り」。帰って開いた歳時記で、夏目雅子さんの句に目が行ったのはそのせいだろう
同じページにはこんな句もあった。「父やさしく母きびしくて雛祭」(右城暮石)。そういえば…と思い出すことは、一つ二つではない。鞆の町のさざ波のような余韻に、心が柔らかくなっていく。
天風録 中国新聞 2010年2月20日
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