2009年09月22日

人生はさよならだけね、ハナニアラシノタトヘモアルゾ/サヨナラダケガ人生ダ・・・ 天風録 八葉蓮華

 備後地方ゆかりの作家、井伏鱒二と林芙美子が連れ立って因島まで出掛けたことがある。1931年、芙美子が「放浪記」によって世に認められた翌年のこと。尾道で講演を終えた後の小旅行である

 二人はそれまで、ほとんど面識がなかった。著書によると鱒二は、5歳下の芙美子の強引な誘いに渋々従ったらしい。ところが帰りの船で、芙美子の意外な姿を目にする。地元の人たちの見送りに感極まったのか、船室に駆け込み「人生はさよならだけね」と泣き伏したのだ

 放浪の作家の激情に当惑しながらも、その時の光景が強く心に残ったのだろう。数年後、あの有名な漢詩の意訳が生まれた。「ハナニアラシノタトヘモアルゾ/サヨナラダケガ人生ダ」。そんな二人の不思議な縁を示す特別展が、ふくやま文学館(福山市)で開かれている

 直筆の色紙や詩文が間近に並ぶ。芙美子のコーナーには、最近見つかった詩の原稿もあった。興が乗ったようなペン書きで「花のいのちはみじかくて/苦しきことのみ多かれど/風も吹くなり/雲も光るなり」。この前段部分もまた、広く知られる

 47歳で逝った芙美子と95歳の長寿を全うした鱒二。花にこと寄せて人生の機微をうたい、多くの人の心をとらえた文人の息づかいを感じる秋である。

 天風録 中国新聞 2009年9月19日
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ラベル:天風録
posted by 蓮華 at 23:33| 大阪 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 天風録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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