二人はそれまで、ほとんど面識がなかった。著書によると鱒二は、5歳下の芙美子の強引な誘いに渋々従ったらしい。ところが帰りの船で、芙美子の意外な姿を目にする。地元の人たちの見送りに感極まったのか、船室に駆け込み「人生はさよならだけね」と泣き伏したのだ
放浪の作家の激情に当惑しながらも、その時の光景が強く心に残ったのだろう。数年後、あの有名な漢詩の意訳が生まれた。「ハナニアラシノタトヘモアルゾ/サヨナラダケガ人生ダ」。そんな二人の不思議な縁を示す特別展が、ふくやま文学館(福山市)で開かれている
直筆の色紙や詩文が間近に並ぶ。芙美子のコーナーには、最近見つかった詩の原稿もあった。興が乗ったようなペン書きで「花のいのちはみじかくて/苦しきことのみ多かれど/風も吹くなり/雲も光るなり」。この前段部分もまた、広く知られる
47歳で逝った芙美子と95歳の長寿を全うした鱒二。花にこと寄せて人生の機微をうたい、多くの人の心をとらえた文人の息づかいを感じる秋である。
天風録 中国新聞 2009年9月19日
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