2009年11月22日

ちょっと日常から離れたい「銃文化」リスクと背中合わせ・・・ 天風録 八葉蓮華

 ご飯を食べるときに、食器を手で持ってはいけない。はしを使ってもだめで、スプーンですくう。韓国を訪れて教わった食事のマナーだ。顔も習慣も日本と似ているようで、実は異質。そこがまた面白い

 円高ウォン安で割安感が出たからだろう。日本から出かけていく人の数は、経済危機の後もうなぎのぼりだ。あこがれの韓流スターの国。ロケ地巡りに免税店と、日本語のサービスも手厚い。「外国」と構えなくても、異文化を味わえる。それが魅力のようだ

 日本では「ご法度」の体験もできる。拳銃の射撃場。数千円払うだけで、誰でも実弾を撃てる。徴兵制が敷かれ、銃の扱いに慣れたお国柄もあるのだろう。観光客相手の施設が幾つもある。その一つで火災が起き、日本人が命を落とした

 中学の同級生の楽しい旅行。「ちょっと日常から離れたい」といった気持ちだったのだろうか。そこに落とし穴があった。火薬の粉じんの爆発が原因では、とも伝えられる。韓国各紙の社説は「わが国の恥を再びさらした」「慢性的な安全不感症」と書き立てた

 「近くて遠い」から、「近くて近い」国になった韓国。食文化の違いには「へえ」と驚き、楽しめばいい。ただ「銃文化」と付き合うとなると、リスクと背中合わせだと思い知らされる。

 天風録 中国新聞 2009年11月17日
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2009年11月21日

あるがままの自分を受け入れ、生まれ出た喜び、老いゆく自分も、あるがままに・・・ 天風録 八葉蓮華

「ぞうさん/おはなが ながいのね」。何十年も昔の子ども時代に口ずさみ、わが子にも歌ってやった童謡「ぞうさん」。仲良し親子の歌と思っていたら、そうではないらしい。作詞した周南市出身のまど・みちおさんが明かしている

 「鼻が長い」とからかわれた子ゾウは「母さんもだよ」と答える。あるがままの自分を受け入れ、生まれ出た喜びを歌っているのだという。そういえば、まどさんの作品の多くは、蚊やアリといった小さな命が主役だ

 ムクゲの種の産毛、薬箱の絵…。幼いころ、まどさんがじっと目を凝らしたのは、道ばたや部屋の片隅に埋もれたものだった。そんな「発見」を書き始めたのが19歳のころ。以来、世に送り出した童謡や詩は2千編を超える

 最近は自らの老いも格好のテーマになる。なかなかつめが切れないと思ったら、持っていたのはホチキス。「しげしげ眺めやると/ホッ チキショウメ!」。マイナスにとらえない。むしろ、へまを楽しんでいるようにも

 先日、新しい詩集が書店に並んだ。「まあ/よくも/ここまで/生きてきた/もんだよなあ」。心からの実感なのだろうか。今も病院のベッドで、日記帳につづったり絵を描いたり。老いゆく自分も、あるがままに。きょう100歳を迎える。

 天風録 中国新聞 2009年11月16日
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2009年11月20日

「ただ揺られ揺られつ」フェリー業界に吹き付けている烈風・・・ 天風録 八葉蓮華

 ススキの原を渡る秋風をうたった北原白秋の詩がある。「遠きもの/まづ揺れて/つぎつぎに/目に揺れて/…風なりと思ふ間もなし」。作者もまた風に吹かれて「ただ揺られ揺られつ」するばかり

 秋風も、海原では大きな波を生むことがある。うねりと合わされば巨大な三角波に。東京から鹿児島に向かうフェリーが、熊野灘でこの波に襲われた。揺れるいとまもあらばこそ、一瞬にして傾き、ついには横倒しに

 いきなりのことで、乗客は何が起きたのか分からなかっただろう。運航会社によると、いつもなら20〜30人の乗客が、たまたまこの便は7人だけ。少なかった分、ヘリコプターでスムーズに救助されたのは幸いだった

 今のフェリー業界に吹き付けている烈風と、つい重なって見える。土日の高速料金が千円になって、客が激減している。先の区間の料金は、全長10メートルの大型トラックで約18万円。これでさらに高速が無料化されたら…

 国内貨物の4割は船が運んでいる。災害時に、物資満載のトラックを積めるのもフェリーならでは。海運業界が傾いては大変だ。「輝けど/そは遠し/尾花吹く風」と、詩は終わる。詩人の心を揺らした風がある。政治によって引き起こされ、だからこそ政治によって鎮められる風もあるはずだ。

 天風録 中国新聞 2009年11月15日
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2009年11月19日

「人間関係にはメンテナンス術が必要」鳩山流メンテナンス術が実を結ぶ日はいつ・・・ 天風録 八葉蓮華

 新聞の隅に載る鳩山由紀夫首相の「動静」欄を見ると、幸夫人と一緒の行動が目立つ。先週の日曜日にはスーパーで買い物。別の日には日本料理店や焼き肉店で食事をしたり、サーカスを見に行ったり。けっこうマメである

 「人間関係にはメンテナンス術が必要」とコラムニスト深沢真紀さんが書いている。機械と同じで、維持管理の努力をすれば長持ちし放置したらガタがくるからという。首相は、夫婦の間のメンテにできるだけの心配りをしているようだ

 国と国の関係ではどうだろう。日米間で「普天間」というトゲがクローズアップされている。早くメンテをしないとほころびにつながる、との心配も高まる中でオバマ大統領が来日した

 首脳会談後の会見では「同盟はアジア太平洋地域の基軸」と、まずはほっとさせるメッセージ。トゲがしばらく刺さったままなのは仕方がない、とのスタンスのように見えるが、日本側も待ったをかけ続けるわけにはいくまい

 イエスと従うだけではなく、主張をしてこそ対等な関係という。その通りだが、深沢さんの言う友人関係の落とし穴も気になる。「これぐらいのことは許されるだろうと勝手に考えるのは危険」。間合いを測りながら着地点を探っていく鳩山流メンテナンス術が実を結ぶ日はいつ。

 天風録 中国新聞 2009年11月14日
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2009年11月18日

「おれは初めから人を信じて、信じて仕事をしてきた」そんな絆で結ばれた時代・・・ 天風録 八葉蓮華

 下松と防府の二つのシネコンに挟まれながら、ただ1軒、頑張って上映を続けている映画館が周南市にある。なんとかもり立てる方法はないだろうか。同時に、周りのシャッター通りも元気になるような…

 そんな話が、地元の映画ファンの間で持ち上がったのはこの夏。「それなら映画祭をやろう」。夕張で、いったん中止になった映画祭が市民の力で復活したニュースもあった。予想以上の早さで「周南映画祭 絆(きずな)」の計画がまとまった

 21日から3日間、山口県にゆかりのある映画を中心に13本を上映する。佐々部清監督「出口のない海」は大津島でのロケだ。「家族ゲーム」は下関出身の松田優作さんが主役。没後20年で再び脚光を浴びているのでタイミングもいい

 メーンゲストの佐々部さんは、ロケを手伝った地元の人が「ぜひ」と招いた。専属で松田さんのスチール写真を撮っていたカメラマンも、知人を通して来てもらうよう頼んだ。手づくりで組み立てるイベントだ

 「おれは初めから人を信じて、信じて仕事をしてきた」と松田さんは言っている。人がそんな絆で結ばれた時代があったのか、とまぶしくもある。しかし今だってそう捨てたものでもあるまい。映画祭そのものが、さまざまな「絆」が集まって生まれたのだから。

 天風録 中国新聞 2009年11月13日
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2009年11月17日

高度成長が始まったころのドタバタ喜劇「社長」昭和という時代に思いをはせる・・・ 天風録 八葉蓮華

 江の川のほとりに小さな映画記念館がある。戦後の黄金期にメガホンを握った松林宗恵(しゅうえ)監督ゆかりの品々が並ぶ。古里、江津市桜江町の文化施設「水の国」の一室。呼び物の一つは森繁久弥さんとのコンビで23本撮った「社長」シリーズだ

 米国出張から帰った途端、フォークで日本そばをすくいだす。仕事そっちのけで女性に色目を使う。軽薄な社長に振り回される部下。高度成長が始まったころのドタバタ喜劇は今見ても腹がよじれそうだ

 からっとして、どこかさめたユーモアも感じられる。森繁さんは中国東北部からの引き揚げ組。七つ年下で元海軍士官の松林さんを「無二の親友」と呼んだ。社長は元戦艦乗りで早メシの癖がなかなか抜けない―といったギャグも共作だったに違いない

 2人は酒を酌み交わすと、「戦友」をよく口ずさんだという。♪ここはお国を何百里 離れて遠き満州の…。軍歌というより、凍土に眠る友への鎮魂歌である。独特の森繁節はどんな哀調を帯びたことだろう

 ことしの終戦の日に松林さんは息を引き取った。計ったような「戦友」の旅立ち。同じころ森繁さんも体調を崩して入院したまま、おととい帰らぬ人となった。昭和という時代に思いをはせるよすがをまた失ってしまったような気がする。

 天風録 中国新聞 2009年11月12日
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2009年11月15日

正義の女神像「審理」生き方まで問われるのはこれから・・・ 天風録 八葉蓮華

 右手に「正義」の剣、左手に「公正」のてんびん。裁判を象徴する「正義の女神像」である。世界各地の裁判所にあり、日本の最高裁判所には尾道市御調町出身の故円鍔勝三さんの作品が置かれている

 同じものは古里の記念館にも。裁きはかくあるべし、という高い理想が伝わる。ただ素人にも同じことができるのだろうか。その不安を和らげようと、裁判員裁判が始まるのを前に最高裁がつくったのが1時間の映画「審理」だ

 主役を務めたのが酒井法子被告。駅の構内で起きたサツ人事件は正当防衛かどうか。双方の言い分を聞いて心揺れる主婦の裁判員を演じて、見る人の共感を呼んだという。ところが被告の覚せい剤事件の巻き添えで、映画はお蔵入りとなった

 きのうの酒井被告。執行猶予のついた判決を言い渡された。こちらは映画ではない現実の世界。「この重みに負けないで更生を」という裁判官の言葉にうなずいた。促されて復唱した判決主文を、どう受け止めただろう

 映画で、主婦が最後につぶやくせりふがある。「自分の生き方まで問われている気がして…」。酒井被告が文字通り生き方を問われるのはこれからだ。再起を信じる国内外のファンのためにも、剣とてんびんの意味は伝わったところを見せてほしい。

 天風録 中国新聞 2009年11月10日
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2009年11月14日

どんなふうに生まれてもわが子「枯れ葉剤」化学兵器の害はひ孫の代まで及ぶ・・・ 天風録 八葉蓮華

 父親になったばかりというのに浮かぬ顔に見える。ベトナムの産婦人科病院で先月末に会ったドクさん(28)。腰から下がつながった双生児「ベトちゃんドクちゃん」と呼ばれていたころの天真らんまんな笑みは影を潜めていた

 やはり双子の赤ん坊は、早産で保育器の中。オギャーも寝息もガラスの向こうだ。「無事育っているか…」。不安とない交ぜの、親になった実感の薄さ。同じ未熟児を授かった父親として察するに余りある

 おまけにドクさんは枯れ葉剤被害者の2世とされる。ベトナム戦争中、猛毒のダイオキシンを混ぜて米軍がまいた化学兵器の害はひ孫の代まで及ぶという。しかし「どんなふうに生まれてもわが子」と夫婦で腹をくくり、人工授精に踏み切った

 あの面持ちは、家族を持った責任感ゆえかもしれない。日越両国の医師による分離手術まで一体だった兄ベトさんと、2年前にシ別した。一人きりの肉親でもあった「分身」の無念を胸に、世代をつなごうとしている

 2世までの被害者だけで400万人とも見積もられている。取材先の病院にも両腕や眼球がなく生まれた子どもが60人近く身を寄せていた。「真っ先に注目された私は長男みたいなもの」。ドクさんの「弟」や「妹」の存在も忘れるわけにはいかない。

 天風録 中国新聞 2009年11月8日
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2009年11月13日

甘いみりんに十数種類の薬草をつけ込んだ「保命酒」伝統を絶やすまい・・・ 天風録 八葉蓮華

 幕末の1856年、米国の初代領事ハリスが伊豆下田にやって来た。日本側が用意したもてなしの食卓に、カツオの刺し身や奈良漬などと並んで上ったのが「保命酒」だった

 食前酒としてふるまわれたという。甘いみりんに十数種類の薬草をつけ込んだ保命酒。ハーブを含んだ「カンパリ」などのリキュールに似ていなくもない。まったりとした琥珀(こはく)色の酒は、ハリスをとりこにしたようだ

 保命酒が福山市鞆町で誕生して350年。大阪の漢方医が、鞆で造っていた「うま酒」(みりん)に生薬を配合したのが始まりとされる。福山藩の奨励もあって全国に広まった。昭和初期をピークに衰退の道をたどり、今は4軒だけ。伝統を絶やすまいと、きょうとあす「保命酒祭」を開く

 薬用酒と違って、あくまで健康のための酒。効能のPRはご法度だ。ただ材料に使われる生薬の組み合わせは、中高年女性に多い体のトラブルに用いられてきた処方に通じる、との専門家の見立てもある。長寿の時代にふさわしいお酒かもしれない

 ハリスは5年余り、日本に滞在した。条約交渉など重要な場面で、保命酒が出されたといわれる。それから150年。懸案が山積する中、12日にオバマ大統領が来日する。心和む保命酒の一席を設けたいところだが…。

 天風録 中国新聞 2009年11月7日
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2009年11月12日

行楽の秋。気ままに見知らぬ土地を訪れ、名物を味わう・・・ 天風録 八葉蓮華

 行楽の秋。気ままに見知らぬ土地を訪れ、名物を味わう。至福のひとときだろう。しかし志を抱く旅人の足跡は、地にしっかり刻まれ、後の世にまで伝わる。吉田松陰没後150年。先ごろ萩市で開かれた「ゆかりの地・人の集い」で実感した

 21歳から25歳までの間に、北は津軽半島から南は熊本まで行脚。各藩に兵学、洋学の師を求め、下田では米国ペリー艦隊に乗船を頼んだ。時代に突き動かされたような松陰の旅を、冬の峠越えで追体験したり、銅像や詩碑を建てたり。各地からの報告は、歴史を生かす地域づくりと映る

 後に戊辰戦争で長州藩が相まみえる会津にも、松陰は足を運ぶ。越後長岡には友人もいた。元首相の演説のおかげで逸話が有名になった「米百俵」の小林虎三郎だ

 松陰・吉田寅次郎と小林は、江戸で同じ塾に通い「二虎」と並び称された。長岡では有名らしく「二虎」と名付けたどら焼きの土産物まであると知った。萩にとっても、ありがたいではないか

 松陰の足跡が長く記憶されるのは、まな弟子たちが明治国家の中枢を占め続けたためでもあろう。維新にちなむ地域交流は盛んだが、会津などにはわだかまりも残る。それに対して、萩市の担当者は長州藩を「官軍」でなく「西軍」と呼ぶ。気配りが心地よく響く。

 天風録 中国新聞 2009年11月6日
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