2009年11月12日

行楽の秋。気ままに見知らぬ土地を訪れ、名物を味わう・・・ 天風録 八葉蓮華

 行楽の秋。気ままに見知らぬ土地を訪れ、名物を味わう。至福のひとときだろう。しかし志を抱く旅人の足跡は、地にしっかり刻まれ、後の世にまで伝わる。吉田松陰没後150年。先ごろ萩市で開かれた「ゆかりの地・人の集い」で実感した

 21歳から25歳までの間に、北は津軽半島から南は熊本まで行脚。各藩に兵学、洋学の師を求め、下田では米国ペリー艦隊に乗船を頼んだ。時代に突き動かされたような松陰の旅を、冬の峠越えで追体験したり、銅像や詩碑を建てたり。各地からの報告は、歴史を生かす地域づくりと映る

 後に戊辰戦争で長州藩が相まみえる会津にも、松陰は足を運ぶ。越後長岡には友人もいた。元首相の演説のおかげで逸話が有名になった「米百俵」の小林虎三郎だ

 松陰・吉田寅次郎と小林は、江戸で同じ塾に通い「二虎」と並び称された。長岡では有名らしく「二虎」と名付けたどら焼きの土産物まであると知った。萩にとっても、ありがたいではないか

 松陰の足跡が長く記憶されるのは、まな弟子たちが明治国家の中枢を占め続けたためでもあろう。維新にちなむ地域交流は盛んだが、会津などにはわだかまりも残る。それに対して、萩市の担当者は長州藩を「官軍」でなく「西軍」と呼ぶ。気配りが心地よく響く。

 天風録 中国新聞 2009年11月6日
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2009年11月11日

いかにすき間なく組み上げるか「超二流のススメ」いぶし銀のような輝きを放つ・・・ 天風録 八葉蓮華

「君に3割はいらない」。ルーツ監督に言われ、三村敏之さんは戸惑った。セ・リーグ2位の3割8厘をマークしたこともあるのになぜ…。葛藤(かっとう)の末、身を捨ててもランナーを進める2番打者に徹した。カープが初優勝した1975年のことだ

 あの川上哲治氏も絶賛したほどのあり余る才能。脇役では満たされない。やはり一流になりたい。翌年、自分の思い通りのバッティングを目指した。本塁打は増えたが、それ以外の打撃成績は軒並みダウン。チームも低迷した

 そんな経験から悟ったのが、同名の著書もある「超二流のススメ。」だ。一流でなくても、組織の中の工夫でそれを超えることができると。カープの監督時代には、一人一人の選手の特性を見極め、任せたい役割を本人が納得するまで説明した

 一流選手ばかりのチームを「一見、高くて立派でも、ちょっとの振動ですぐ崩れるすき間だらけの石垣」に例えた。自らもチームメートも生かせるような超二流選手の石垣を、いかにすき間なく組み上げるか。知将と呼ばれたこの人のテーマだった

 組織論にも通じる野球哲学を買われ、楽天のフロントに。後輩のブラウン氏を監督に迎え入れる直前の訃報(ふほう)だった。61歳は早すぎるが、その足跡はいぶし銀のような輝きを放つ。

 天風録 中国新聞 2009年11月5日
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2009年11月10日

古い町には「便利で快適」を追い求めない住まい方があったという感覚・・・ 天風録 八葉蓮華

「桜紅葉」は秋の季語だ。らんまんの花が散り、青葉に変わり、秋の気配とともに次第に色づいていく。カエデやツタの燃え上がるような紅葉とはほど遠く、どちらかといえばくすんだ感じだ

 ところが近寄って、一枚一枚の葉の色模様を見るとびっくりする。緑から紅へ、紅から赤へ、黄へ、そして茶の枯れ葉色に、という移り変わり。カラーの世界がいつの間にかセピア色になっていく大林宣彦監督の映画を、ふと連想した

 過去と現在とを行ったり来たりする物語。ロケ地にぴったりなのが、セピア色を思わせる古い港町・尾道だった。監督は後に、なぜここを選んだかのもう一つの理由を書いている。「撮影して全国の人に知ってもらい、愛してもらえるように努力する」。だから開発で壊すのはやめてほしかった、と

 古い町には「便利で快適」を追い求めない住まい方があったという。例えば暑いからこそ味わえる廊下を渡る一陣の涼風。壊してしまったら、こうした感覚も忘れられてしまう。映画ではそんな思いも伝えたかったのだろうか

 大林さんが、秋の叙勲を受けた。山一面の紅葉のような派手さはないが、桜紅葉の一枚一枚のように、子どもから大人へと移ろう心のひだを映した作品の数々。これからも色あせることはあるまい。

 天風録 中国新聞 2009年11月4日
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2009年11月08日

独自のスタイルbento弁当「日本流」をどう伸ばしていくのか・・・ 天風録 八葉蓮華

 パリやニューヨークでは今弁当を紹介する本が書店に並んでいるそうだ。彩り豊かなおかずやむすび。見た目の美しさだけでなく、栄養バランスもよい。作って楽しむ人も増え、「bento」は国際語になろうとしている

 手間暇を惜しまぬこだわりと美意識。弁当には日本らしさが詰まっている。海外から刺激を受けつつ適度な距離を保ち、独自のスタイルを花開かせた。そんな評価の一方で、国内では「ガラパゴス化」という言葉も耳にするようになった

 ガラパゴス諸島は、ダーウィンが進化論の着想を得た場所である。南米大陸から遠く離れていたため、ゾウガメなどが独自の進化を遂げた。世界から取り残されそうな日本のIT関連産業の現状に似ているらしい

 その代表例とされる携帯電話。写真や動画にテレビと、あらゆる機能を満載している。しかし必要最低限でいいという海外の市場ではさっぱり。国内のニーズにばかり目を奪われていたことへの「警告」ととらえたい

 とはいえ、世界標準にならうだけではつまらない。世界の若者が熱中する漫画や、食通をうならせる繊細な味わいの果物もある。自分たちではその価値に気づきにくい「日本流」をどう伸ばしていくのか。小さな弁当箱には、いろんなヒントが隠れている。

 天風録 中国新聞 2009年11月2日
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2009年11月07日

扇子をたたいて「はい、座布団1枚」笑わせるのが一番むずかしい・・・ 天風録 八葉蓮華

 テレビが出現したころ、噺(はなし)家(か)にとっては「天敵」だったかもしれない。それまで大入りだった寄席の客は、ごっそり奪われる。座っているだけで動きの少ない落語は、番組で取り上げてもらえない

 ならばと思い当たったのが「大喜利」のスタイルだ。出されたお題にいかに面白く答えるかを、何人かで競う。「笑点」はそれでヒットし、その後の噺家タレントブームにつながった。長く番組の顔だったのが、亡くなった三遊亭円楽さんだ

 「噺家なんてぇのはのんきな商売で」というのはよくあるマクラ。扇子をたたいて「はい、座布団1枚」とおちょぼ口で笑う円楽さんを見ると、いかにもそんなふうに見えた。しかし「実際はそうじゃあない。笑わせるのが一番むずかしい」(「圓楽芸談しゃれ噺」)

 テレビに出過ぎだとたたかれ、テレビと一時縁を切った時は「落ち目」と見られたりした。落語協会から離れて自前でつくった寄席の負担にも苦しんだ。のんき、どころではなかったと知る

 浅草生まれの江戸っ子。4年前に脳梗塞(こうそく)で倒れ、復帰した高座で「ろれつが回らない」と、その日のうちに引退を決めた。「江戸っ子が登場する落語をやってるんですから、そらあ、引き時を間違えちゃいけません」。人生の引き時はしかし、早すぎた。

 天風録 中国新聞 2009年11月1日
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2009年11月06日

「潮頭、箭よりも駛し」潮の流れを読む難しさは、いにしえから変わらない・・・ 天風録 八葉蓮華

 頼山陽が関門海峡に立ち寄ったのは200年も前だ。得意の漢詩で「潮頭、箭(や)よりも駛(はや)し」とうたった。潮の流れは矢よりも速い。その驚きは日々、ここを行き交う船乗りの実感でもあったろう

 瀬戸内海と外海をつなぐ玄関口は古来、危険と隣り合わせの難所。Sの字にうねる地形では、潮流が時を追って複雑に変わる。しかも最大時速は20キロというからマラソンランナー並みだ。暗礁や浅瀬もあちこちにあった

 少しでも通りやすく、と100年前から航路整備が始まった。だが今も難所には変わりない。おとといは護衛艦と韓国船が衝突した。接触や座礁が絶えない海峡でもめったにない大事故。闇の中で艦首が燃える映像に背筋が寒くなった人もいよう

 ちょうど壇の浦の合戦と同じ場所。事故の引き金は韓国船の「追い越し」のようだ。ただお互い正面にいると分かって避けられなかったのはなぜか。潮流は関係なかったか。源義経が潮の変化に乗じて平家を破った故事を思い出してしまう

 山陽はこう続けた。「一たび出ずれば是、玄洋(玄界灘)」。狭い海の道が世界に通じている。国際貿易の大型船が増え、外国人船員も多くなった。今は1日に1000隻が通る。それでも潮の流れを読む難しさは、いにしえから変わらない。

 天風録 中国新聞 2009年10月29日
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2009年11月05日

米軍普天間飛行場の移設先「公約」環境の変化の影響を真っ先に受けるサンゴ・・・ 天風録 八葉蓮華

 瀬戸内海のサンゴが危ない、と言うと驚く人がいるかもしれない。あまり知られていないが、山口県の周防大島町沖は「ニホンアワサンゴ」の国内最大の群生地だ。20〜30メートル四方に階段状になって広がっている

 先日、その一部がシんでいるのが見つかった。潜ってライトを当てるとグリーンに光るはずのサンゴが、しゃれこうべのような姿をさらしている。赤潮など、突然の環境異変が原因との見方があるが、はっきりしないだけに不気味だ

 サンゴといえば南の海のイメージがある。日本では沖縄だろう。ところがその沖縄本島でも、土木工事の影響などで海が濁り、大半のサンゴがシ滅しているという。わずかに残されたのが辺野古の沖合。米軍普天間飛行場の移設先として埋め立てが予定されている海である

 その計画を見直して基地は県外に移転する、としていたのが民主党だ。ところがその約束が揺れている。きのうは防衛相が、移設案はグアム移転なども含むので「公約と矛盾しない」と言い出す始末だ。いかにも軽い発言で、官房長官も注意を促した

 美しい海にしかすめず、環境の変化の影響を真っ先に受けるサンゴ。約束が守られなければ、こちらは原因が極めてはっきりした環境破壊の現場になってしまうだろう。

 天風録 中国新聞 2009年10月28日
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2009年11月04日

人は必要とされてこそ幸せ「出番」その場をつくる、あなたならできる・・・ 天風録 八葉蓮華

 50人いる社員のうち、知的ショウガイの人が7割を占める。社長は言う。「人は必要とされてこそ幸せ。その場をつくるのが企業」と。坂本光司著「日本でいちばん大切にしたい会社」が紹介している川崎市のチョークメーカーだ

 きっかけは50年前。仕事をしたいという女の子2人を、試みに受け入れた。懸命に、でも幸せそうにラベル張りをする姿。女性社員が心を動かされた。「雇ってあげてください。できないことは私たちがカバーします」

 悩んだ末に会社も決断した。時計の読めない子には砂時計で、というふうにその人に合わせて工程などを工夫し、困難を乗り越える。この工場を訪れた鳩山由紀夫首相が、所信表明の中で取り上げた。「出番」という言葉とともに

 これを任せる。あなたならできる。そう言われると、認められたと感じ、自分の存在感が満たされる。「出番はない」と思っていた人ほど元気になれる。そうした関係を張り巡らせて、社会のきずなを取り戻そうという首相の哲学が、この2文字ににじむ

 「米百俵」など故事来歴を引いた歴代首相と違って、自分の体験を織り込むのが鳩山流のようだ。演説の心をどう実現するか、国会の論戦はあすから。政権交代劇場の外にいた野党自民が「今度は出番」と待ち構えている。

 天風録 中国新聞 2009年10月27日
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2009年11月01日

大掃除「特別会計」母屋はおかゆをすすり、離れはすき焼きをむさぼる・・・ 天風録 八葉蓮華

 母屋はおかゆをすすり、離れはすき焼きをむさぼる―。母屋に当たる国の財布の「一般会計」が倹約しているのに、離れでは官僚や族議員が無駄遣い。そう例えられた「特別会計」の大掃除が始まった

 貿易再保険、特定国有財産整備…。全部で21の特別会計の中には聞いたことがない名前もある。誰からも文句を言われず、各省庁が好きに使えるところは「へそくり」そっくり。正味で約170兆円と「一般」のほぼ倍。これでは、どちらがへそくりか分からない

 長年、聖域扱いにされ、財務省もなかなか口を挟めなかった。おまけに、こっちの財布からあっちへと、金の流れも複雑に入り組んでいる。わざと中身を見えにくくしているのでは、と勘ぐりたくもなる

 へそくりといえば、徳川家康を思い出す。普段は麦飯を食べていたというケチケチぶり。金に困った大名に泣きつかれ、ポンと貸した。大名はそれから家康に忠節を尽くすようになったという。いざというとき、さっと使う。うまい生かし方だろう

 今や、母屋は火の車になっている。離れの風通しをよくしようとしたことが、かつても何度かあった。しかし官僚は、へそくりを握り締めて放さなかった。もとはといえば、国民のお金。おかゆさえ口にできなくなっては困る。

 天風録 中国新聞 2009年10月26日
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2009年10月31日

「芸術的なリズム」勝っても負けても、サンフレッチェ広島の攻撃サッカーは楽しい・・・ 天風録 八葉蓮華

 勝っても負けても、サンフレッチェ広島の攻撃サッカーは楽しい。2対0から追いつかれて引き分けた先週のガンバ大阪戦も、スタンドには笑顔があった。「わくわくさせてくれるよね」。称賛の声は相手側からも聞こえる

 機敏なパス回しで相手の守備陣を置き去りにする。パチンコ玉がくぎで角度を変え、カンカンと抜けていくさまを連想させる。イレブンが頭の中で同じ絵を描いているからだろう。人もボールも動くのが「サンフレッチェ劇場」の見どころだ

 1試合平均の観客数が1万5千人を超えている。前期優勝した1994年以来という。こんなサッカーこそ見たかった、との思いが試合場に足を運ばせる。その人波が劇場をさらにもり立てていく

 オペラ好きの五木寛之さんによれば、観劇のこつは「ひいきをつくるに限る」。舞台の歌手や役者と心の糸で結ばれる気がするという。スポーツ観戦も同じだろう。ひいきどころなら、今のサンフレはよりどり見どり。芸達者がそろっている

 残りは5試合。今夜は川崎で2位フロンターレとぶつかる。勝ち点8差に広島など8チームがひしめく戦国J1。「芸術的なリズム」とも褒められる攻撃に、相手ボールを追い回す堅実な守備がかみ合えば、「優勝」の2文字も夢ではない。

 天風録 中国新聞 2009年10月25日
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